外科2017/11/24

甲状腺疾患について

1.甲状腺の働きについて

甲状腺はのどぼとけのすぐ下にある蝶々が羽をひろげたような形の小さな臓器です。
甲状腺は甲状腺ホルモンを出して、以下のような働きをしています。

  1. 脳の活性化:脳に作用して、その働きを活性化する
  2. 新陳代謝の促進:全身の細胞の新陳代謝を促進し、エネルギーを作る
  3. 体温調節:新陳代謝で得られたエネルギーで体温の調節をする
  4. 心臓や胃腸の活性化:心臓や胃腸の働きを活性化する

2.甲状腺の疾患

大きく分けると2つあります。
1つは腫瘍性疾患で、2つ目は甲状腺機能の変化による疾患です。

1)甲状腺腫瘍

甲状腺腫瘍には良性の腫瘍と悪性の腫瘍があり、主に手術の対象となるものは悪性腫瘍、いわゆる甲状腺癌です。ただし良性の腫瘍でも大きさが大きければ美容上の問題等で手術になる場合もあります。

(1)甲状腺癌

甲状腺癌には、主に4つのタイプがあります。乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんです。症状は初期には特にありません。進行すれば、以下のような症状が出現することがあります。

  1. 頸部(首)の硬いしこり
  2. 時に声のかすれ
  3. 水分摂取でむせやすくなる  など

乳頭がん、濾胞がん、髄様がんは遠隔転移(甲状腺から離れた部位への転移のことで、主には肺や骨への転移が多い)がなければ手術で切除します。主な手術の方法は甲状腺葉切除術、甲状腺亜全摘術もしくは甲状腺全摘術で、これらの手術と同時にリンパ節郭清を行います。未分化がんは進行が速いので、手術ではなく抗癌剤治療や放射線治療をすることが多いです。

(2)その他の腫瘍、主に良性腫瘍

良性腫瘍には濾胞性腺腫や腺腫様甲状腺腫などが多く、良性腫瘍と鑑定診断できていれば、経過観察をする場合が多いです。しかし以下のような場合に手術で切除することがあります。

  1. 徐々に増大する場合(悪性腫瘍の可能性があります)
  2. すでに大きな腫瘤を形成し首のしこりとして認識される(美容上の問題)
  3. 大きな腫瘤で食べたものが飲み込みにくい場合
  4. 声がかれるなどの症状がある場合 
  5. 腫瘍から過剰な甲状腺ホルモンが放出される場合(プランマー病)

手術は腫瘍のみの切除(核出術)や甲状腺部分切除術、甲状腺葉切除術を行うことが多いです。

2)甲状腺機能の変化による疾患

これには主に甲状腺機能が亢進する場合(甲状腺の機能が過剰となること)と甲状腺機能が低下する場合があります。

(1)甲状腺の機能が亢進した場合

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されようになった状態を言い、バセドウ病や中毒性甲状腺炎、プランマー病などで見られます。

①バセドウ病

甲状腺自体が自律的に大きく腫大し、甲状腺ホルモンを過剰に分泌するようになった疾患です。比較的若い女性に多い疾患です。症状は甲状腺腫大(首の大きなしこり)、頻脈(時に心房細動)、眼球突出、イライラ、手の震え(特に指の震え)、発汗、体重減少などです。治療方法は内服治療、アイソトープ治療、手術の3つがあります。

1.内服治療

チアマゾールやプロピルチオウラシルというお薬を内服する治療です。比較的軽症の場合に適応があり、長期間内服する必要があります。

2.アイソトープ治療

放射線同位元素を用いた治療です。131ヨードと言われる放射線同位元素を内服することで過剰に発達し大きくなった甲状腺組織を破壊して甲状腺機能を正常に近づけます。1ないし2回の内服の場合が多いですが、被爆の問題があり、全身状態が不良で手術できない場合や内服治療を希望されない場合などに適応があります。また以前は妊娠可能な女性への治療は禁忌とされていましたが、現在は治療前後に十分な避妊期間を設けることで治療可能となっています。

3.手術

大きく腫大した甲状腺をほぼすべて切除し、甲状腺ホルモンの過剰な分泌を抑えることを目的としています。以下のような場合に手術の適応があります。

  1. 内服治療で十分な効果が得られない
  2. 内服治療による副作用で継続できない
  3. 内服治療をしても甲状腺腫大が大きいまま
  4. 手術を希望する
  5. 若年者

など。手術の方法は主に甲状腺亜全摘術を行います。

これらのうちどの治療を選択するかはその時の状態で考えます。

②プランマー病

甲状腺ホルモンを分泌する良性の甲状腺腫瘍です。治療は手術で、核出術、甲状腺部分切除もしくは甲状腺葉切除になります。

(2)甲状腺の機能が低下した場合

甲状腺機能低下症、橋本病もしくは慢性甲状腺炎と言われるものです。多くは女性に発症します。一般的に治療は内服薬になります。

3.甲状腺の手術

(1)甲状腺腫瘍核出術

腫瘍だけをくりぬくように切除します。

(2)甲状腺部分切除

甲状腺腫瘍などを含めて、甲状腺の一部分を切除します。

(3)甲状腺葉切除

甲状腺腫瘍などを含めて、甲状腺の右側もしくは左側半分を切除します。

(4)甲状腺亜全摘術

甲状腺腫瘍などを含めて甲状腺の大部分を切除(2/3以上を切除)し、甲状腺のごく一部のみを残します。

(5)甲状腺全摘術

甲状腺のすべてを切除します。

4.手術後の合併症

甲状腺の手術後に起こる可能性のある合併症は以下のようなものがあります。

(1)反回神経麻痺

反回神経とは声帯の機能を司る神経で、この神経は甲状腺のすぐ背側を走行しています。このため甲状腺手術の際にこの神経を傷つける可能性がわずかにあります。この神経が麻痺したら、「声がかすれる」「大きな声がでない」「電話で話せない」「カラオケが歌えない」「飲食時にむせやすい」などの症状がでます。

(2)術後出血

手術後に手術したところから再出血する可能性がごくわずかにあります。

(3)甲状腺機能低下症

甲状腺の正常な部位も一緒に切除してしまうため、甲状腺機能が低下することがあります。甲状腺機能が低下した場合には内服治療を行います。

(4)全身麻酔に伴うもの

全身麻酔に伴うものとして、手術後の肺炎や血栓症のリスクがあります。

5.当科での手術前後のながれ

検査は外来で行い、手術の前日に入院して頂くことが多いです。手術当日はベッド上で安静ですが、術翌日からは歩行も可能となり、合併症等の異常がなければ食事も再開となります。手術後、4-5日目以降に退院可能となります。

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