形成外科2024/12/07

疾患の説明「眼瞼下垂(がんけんかすい)とは?眼瞼下垂症とは?」

1.先天性眼瞼下垂

 狭い意味では上眼瞼挙筋そのもの、あるいは筋肉を動かす神経に異常があるものを指します。上眼瞼挙筋がないタイプ、筋肉の成分が不足しているタイプ、神経異常で口を動かしたときだけ目が開くタイプなどいろいろあります。
 生まれつきなので、片方に光が入らず、弱視になる恐れがあるタイプから、左右差はあるが、生活には困らないレベルまでいろいろあります。
 顔を動かさず、視線を上に向けた時に開きの悪さがより顕著になるという特徴があります。

 生まれつき、上眼瞼挙筋の動きを邪魔する組織が多い人もいます。狭い意味での先天性眼瞼下垂と区別が難しいこともあります。これらの方たちは、腱膜性眼瞼下垂が軽症でも症状の発症が若いうち(小学生ごろから肩がこる、頭痛がするなど)特徴的です。疾患の説明、治療については腱膜性眼瞼下垂を参照してください。

2.腱膜性(後天性)眼瞼下垂、腱膜性眼瞼下垂症

 明確な基準はありません。担当科、担当医師によって判断基準が違います。瞳孔に上まぶたがかかると眼瞼下垂とする基準が採用されることが多いですが、上まぶたの上がり具合は、その時の患者様の体調、力の入れ具合など種々の要素でいくらでも変化します。このページでは眼瞼挙筋の腱(腱膜)が上へずれて、瞼板の前からなくなってしまった状態を眼瞼下垂として説明します。ただ、この状態になるとすべてに眼瞼下垂症(いろいろ症状がある状態)がおこるわけではなく、紛らわしいので、この状態を眼瞼下垂状態と呼ぶことにしましょう。

・なぜ眼瞼下垂状態になる?
 他の場所の筋肉の腱はそれが動かす骨との結合はとても強くできています(断面図1)。

断面図1

 目を開ける筋肉(上眼瞼挙筋)は前の方は薄い腱になっています。さらにまぶたの作用点である瞼板との結合は、弱い状態で生まれてきます。これが欠陥なのか、意味がある(後述します)ことなのかはわかりません。

断面図2(顔の絵A.またはB.

 例えばまぶたの皮膚を横にひっぱります。皮膚と腱膜も結合していますので、腱膜も移動します。瞼板は内からと外から靱帯で強めに固定されているのであまり移動しません。そうすると腱膜と瞼板の間にズレが生じます。このズレの力で少しずつですが、腱膜と瞼板の結合線維が切れていきます。この積み重ねによって腱膜と瞼板が離れていきます。
 いつ瞼板の前から腱膜がなくなってしまうかはわかりません。多分10歳ごろにはほとんどこの状態になっていて、ただ、まだ長い結合線維がなんとか残っているだろうと推測されます。

・なぜ眼瞼下垂状態になっても目が開く?
 眼瞼下垂状態になってもたいていの場合、目は開きます。この理由を説明しましょう。

断面図3(顔の絵A.B.C.D.E.

 まぶたには、もう一つ、ミュラー筋という筋肉が代わりに仕事をすれば眼瞼下垂状態になっても目が開くのです。ミュラー筋も上眼瞼挙筋と瞼板をつないでいます。しかし、幼少期には弱く、ほとんど仕事をしていません(断面図2、顔の絵A.またはB.)。幼少期はまぶたを持ち上げる仕事は上眼瞼挙筋の腱膜が完全にできており、ミュラー筋を動かす交感神経(自律神経の体を活動的にする側の神経)の信号が弱いため、ほとんど縮もうとしていません。動かないので力もつきません。眼瞼下垂状態になって、上眼瞼挙筋の腱膜の仕事の効率が悪くなってくると、ミュラー筋に力が伝わってきます。ミュラー筋の中には機械受容器というセンサーがあり、ここからの信号で交感神経が刺激され、強くなります。交感神経によってミュラー筋は縮み、少しずつ鍛えられていきます。鍛えられるとさらにセンサーは信号を増やします。上眼瞼挙筋腱膜はだんだんと瞼板から離れるため上眼瞼挙筋の力は腱膜でなく、ミュラー筋を伝わるようになっていくのです(断面図3、顔の絵A.B.C.D.E.)。


断面図4(顔の絵F.

・腱膜性眼瞼下垂状態で目が開かなくなってしまう人は?
 上眼瞼挙筋の腱膜が離れるのが早く、ミュラー筋も鍛えられる前に引き延ばされてしまい、使えなくなってしまった場合(断面図4、顔の絵F.)です。目の近くの外傷、アトピー性皮膚炎や結膜炎などで目を強くこすり続けた場合、ハードコンタクトレンズをはずすため、目じりを強く引っ張りすぎることを繰り返した場合などに起こりえます。体質的にミュラー筋があまり強くならずに引き負けてしまっている人もいるかもしれません。

目が開いているのにいろいろな症状が起きてしまっている場合

 ミュラー筋の中の機械受容器からの信号量が増えたことによります。この信号を固有感覚といいますが、ミュラー筋からの固有感覚が増えると起こりうる症状は下記のように多彩です。

  1. 上眼瞼挙筋の収縮力があがるために目を開くことの疲れ、目の奥に痛みが出ることがあります。
  2. おでこの筋肉を自動的に縮める動きが出ることが多いです。額にシワができ、眉が上がってまぶたの皮膚が伸びていきます。緊張性頭痛の原因になることがあります。
  3. 遺伝的に、目を閉じる筋肉、眉間にシワを寄せる筋肉などが自動的に縮んでしまう人が多くいます(日本人の半数近く)。この動きは目を開ける動きの邪魔をしますので、眼瞼痙攣と呼ばれています。
    こうなると上記の⑵と逆に眉が下がったり、外側だけ上がったりします。
  4. 前方を見やすくする助けとして、首の後ろや肩の筋肉を自動的に縮め、顎をあげようとします。これが強いと首や肩が凝ったり、後頭部や背中が痛くなったりします。
  5. 脳の活動性が上がります。もしかするとこのために眼瞼下垂状態になるべく設計されているのかと思ったりするのですが(幼いころはがんばらなくていいが、大人になったらもっとがんばれということ?)、これも程度に個人差があって、活動的になって好ましい場合とそうでない場合があります。好ましくない場合とは、脳が疲れやすくなる、原因なく不安が生じる、ストレスを感じやすくなる、などで、また目をつぶっても信号がオフにならないために、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。脳が疲れると、それでもがんばるために、くいしばったり、眉間にしわを作ったりします。どちらも重いものを持つなど力を入れたいときや、精神的に戦闘モードに入ったときにする行為ですが、日中の活動中いつもこれをしてしまう。くいしばりのためにこめかみが痛くなったり、顎関節症(耳の前の音・痛み、口が開かない)になったり、原因不明の歯痛になったりします。
  6. 体中の遅筋(赤筋)に力が入りやすくなります。これも良し悪しで、良い場合は持久力アップ、悪い場合はいろいろなところに痛みがでたり、体が硬くなったりします。
  7. 交感神経が強くなります。そもそもこれはミュラー筋が目を開けるための力を伝えられるために必要な現象です。しかし、交感神経は全身に影響しますので、心臓の動き、血管収縮、腸管運動の抑制、瞳孔の開き、汗、膀胱の動きなどに影響します。なので、動悸、血圧上昇、便秘、まぶしさ、多汗、尿意の異常が起こりえます。また、目を休めた(=固有感覚がオフになった)ときの揺り返しが大きいために、低血圧、片頭痛、下痢、ふらつき、めまいなどを起こす人もいます。個人差が大きく、これらの症状は出たり出なかったりします。眼瞼痙攣を伴うとまぶしさを訴えられるかたが多いようです。
ミュラー筋も引き延ばされてしまった場合

 まぶたが上がらず、視野が狭くなります。この状態でも眉を上にあげるとある程度上まぶたも上がりますので、これで補えた場合、視野は保たれています。しかし、このように目を開けていると、皮膚が伸びてしまい、眉を上げる力がまぶたまで伝わらなくなってしまいます。こうなると視野障害がおこります。狭い意味での眼瞼下垂症はこの状態を指すことが多いです。

  1. 視野が狭くなり、特に上が見にくくなります。顎をぐっと引き上げるために、首や肩がこったり、おでこにシワを寄せるため、緊張性頭痛が起こることがあります。
  2. 日中、眠くなりやすくなります。ミュラー筋が引き延ばされ、機械受容器の感度も落ちてしまうと脳の活動性も落ちてしまいます。

 眼瞼下垂状態になっても困った症状が出ない人ももちろんいます。信号が増える程度が体に適していたり、多少の症状は苦痛と感じるほどでなかったり、その理由はいろいろです。症状の軽い人も含めて、この方々には眼瞼下垂の治療は不必要であると考えられます。むしろ治療することで脳の活動性を落としてしまって能率が悪くなるなどが起きてしまうかもしれません。ですから、症状もないのに見た目のための手術をすることはお勧めできません。

3.眼瞼痙攣

 この状態もはっきりと定義できていません。眼瞼下垂と同じでこの状態であっても症状があったり、なかったりします。
眼瞼下垂状態になり、信号が増え、目を閉じる筋肉、眉間にシワを寄せる筋肉などが自動的に縮んでしまう状態です。成人の白人、日本人でもいわゆる「濃い顔」の人はほとんどがこの状態であるとも言えますが、もちろん全てに症状がでているわけではありません。
 軽い眼瞼痙攣でも出やすい症状は目の乾燥です。眼瞼痙攣の動きに対抗して、上眼瞼挙筋の動きを強くすることになり、まばたきの瞬間に十分力が抜けきらず、閉じ切らないうちに開いてしまうために、十分涙液が眼球に行きわたらないためと考えられています。交感神経が強くなるので、まぶしさも初発症状になります。
 少し重くなると、「まぶたが重い」という自覚症状がでます。まぶたはとても軽くできています。それが重いということは、上眼瞼挙筋に対抗する眼輪筋の収縮力が重みを感じさせているのです。上眼瞼挙筋の力が勝っているうちはそれでもしっかり目が開いていることが多く、「まぶたが重いので眼瞼下垂では?」と診察を受けても「開いているから違う」と医者に言われてしまったという患者さんはたくさんおられます。眼瞼が勝手にビビビと動くことがある人はたくさんおられます。これ自体は眼瞼痙攣ではありませんが、眼瞼痙攣によって疲れた眼輪筋の異常な動きであることが考えられます。眼輪筋にストレスをとるステロイドを注入すると治まります。この動きは「眼瞼ミオキミア」と呼ばれています。
 さらに重くなると、眼輪筋の力が上眼瞼挙筋の力を上回って、開けた直後に閉じてしまう状態になります。ミオキミアと違って動きは大きく強く、目を開けていたくなくなります。
 顔面の他の筋肉(表情筋)にも痙攣が広がると、眼瞼痙攣という状態になります。メージュ症候群といわれる状態がそれで、頭蓋内に原因がある片側の顔面痙攣とは違って両側に起こります。広頚筋という首の表面の筋肉(これも表情筋の一つ)が痙攣して、目を開けると首を前後にふる痙攣が起こる患者さんもおられました(眼瞼の治療だけでそれも治ったんですよ)。

4.開瞼失行

 閉じた状態から開くのが難しく、眉を持ち上げて視野を得ようとしている場合が多い状態です。いろいろな説があり、機序ははっきりしていませんが、下眼瞼のミュラー筋の中の機械受容器からの信号異常という説を信じています。
 下眼瞼のミュラー筋の中の機械受容器という新しい役者が参入してきました。これは何をする役かというと、脳を休めるスイッチと考えられます。このスイッチは下まぶたを持ち上げると刺激され、脳に信号を出します。上眼瞼のミュラー筋の中の機械受容器は目を開いた状態で維持し、脳を覚醒させるという信号を出します。その逆を考えてみると、下眼瞼のミュラー筋の中の機械受容器からの信号は目をつぶった状態を維持し、脳の活動を落とすということになります。目をつぶった状態を維持するためには、目を閉じる筋肉(眼輪筋)を反射的に収縮させ、さらに上眼瞼挙筋を緩める必要があります。対立する筋肉の動きを抑える(例えば肘を曲げるときには肘を伸ばす筋肉を緩める)ことは、体中普通にあることです。上眼瞼挙筋を緩めることで上眼瞼からの信号を落としているのか、下眼瞼の信号が直接脳の活動を落とすのかはわかりませんが、結果は同じで、眠りをいざなうことになります。
 開瞼失行はこの信号が強すぎるために起きる疾患であると思われます。目を開ける筋肉が緩みすぎ、閉じる筋肉が縮んでしまうから、なかなか目が開かない。下眼瞼のミュラー筋の中の機械受容器からの信号を落とす手術で開瞼失行が改善するという事実がこの理論を後押ししてくれています(脳の覚醒状態まで良くなるそうです)。ただ、これが真理だというところまでは証明されていません。

5.習慣になった皺眉筋などの収縮 

 眼瞼下垂状態で脳が疲れやすくなると、常時眉間や鼻の上部(鼻根部)にシワを寄せる人が多くいます。いつもやっているので、癖(くせ)になってしまい、眼瞼下垂や眼瞼痙攣を治療しても、これらの動きが残ってしまうこともあります。これらの動きはミュラー筋の中の機械受容器を刺激してしまうので、手術後もいろいろな症状が残ってしまう。顔面痙攣の引き金になってしまう場合すらあります。

6.薬剤による眼瞼下垂症、眼瞼痙攣

  1. 泌尿器疾患治療薬による眼瞼下垂症
     前立腺肥大症などで使われるアドレナリン拮抗薬はミュラー筋の収縮力を落とし、弱くなります。目が開きにくい腱膜性眼瞼下垂状態になりやすくなります。
  2. 緑内障治療薬による眼瞼下垂症
     プロスタグランジンを用いた緑内障治療薬は上眼瞼挙筋の筋肉を弱くする副作用があります。
  3. 精神安定剤、抗不安剤としてとても良く使われるベンゾジアゼピン系薬剤の多くは長期投与により、眼瞼痙攣を起こすと言われています。

 2と3による眼瞼下垂症、眼瞼痙攣は現在の治療方法では十分に治せないことがあります。

7.その他の原因による眼瞼下垂

  1. 神経麻痺による眼瞼下垂
     まぶたを持ち上げる上眼瞼挙筋は動眼神経という脳神経で動きます。外傷、疾患(糖尿病など)によってこの神経にダメージがおこると眼瞼下垂になります。
  2. 交感神経麻痺による眼瞼下垂
     ホルネル症候群というもので、他に瞳孔が小さくなります。交感神経麻痺もいろいろな原因で起こりますが、目が開かなくなる腱膜性眼瞼下垂の重度の状態になります。
  3. 外傷、腫瘍、手術による眼瞼下垂
     上眼瞼挙筋やミュラー筋の断裂、機械受容器からの信号を伝える神経の断裂が起こると重度の眼瞼下垂になります。涙腺に腫瘍ができると下垂になることがあり、下垂になる程大きくない涙腺の腫瘍を切除することで下垂になることもあります。

 受診患者様に「私、眼瞼下垂になってます?」と、よく聞かれます。
疾患の説明で述べていますが、普通に目を開けて生きてきて、ときどき目をこすり、毎日顔を洗ってタオルで拭いていたら、10歳ですでに眼瞼下垂状態であると考えられます。見た目と症状の重さは相関しません。中には外見上全く眼瞼下垂状態が進んでないように見えて(幼少期からほとんど変わってない)症状がたくさんでてきているという人もおられます。顔の絵を参考にしてみてください。正常の状態と眼瞼下垂の状態との両方をしめした絵が2つあります。

「眼瞼下垂について」リンク

眼瞼下垂専門外来のページはこちら

形成外科のページはこちら

各診療科トピックスの一覧に戻る

PAGEのTOPへ

PAGEのTOPへ

ご利用者別メニュー