2017/10/23
糖尿病教育入院について
当院の教育入院は水曜日あるいは木曜日に入院し、翌々週の水曜日に退院する2週間のコースとなっています。定員は聴講生を含めて6名です。教育入院に入られた患者さんは入院期間中に血糖コントロールのみでなく、糖尿病教育講義への参加や各種合併症の精査を行います。
当院では血糖や尿糖、体重については入院患者さんご自身で記録していただきます。実際に血糖や尿糖、体重が改善していく様子を記録することで行動変容を促す効果が期待されます。
入院中には管理栄養士による食事療法、理学療法士による運動療法、看護師によるフットケア、検査技師による検査データの見方などの講義に参加します。最近では日本糖尿病協会が普及に力を入れている「カンバセーションマップ」も使用して講義を行っています。
これは各テーマにそった図やカードなどを用いて、患者間での会話の交流を行いながら糖尿病への療養意識を高めていくという新しい指導ツールです。
入院中には各種合併症の検査も行います。一般的な大血管障害、細小血管障害の検査のみでなく、大血管障害の早期発見のために禁忌のない限りトレッドミル負荷試験を行っています。2012年の「日本糖尿病学会中四国地方会第50回総会」において、自覚症状のない教育入院患者さんの34%で陽性となり、更なる精査により16名に有意狭窄がみられたという結果を当院の眞鍋健一医師が報告しています。
また、当院では糖尿病教育を行う上で、治療意欲(Prochaskaの行動変容ステージモデル)や性格(CSI:Communication Style Inventory)、抑うつ度(SDS:Self-rating Depression Scale)などを評価して患者さんに合わせた、きめ細やかな指導を心掛けています。
このうち、抑うつに関する興味深い臨床研究結果が出てきました。糖尿病教育入院は、治療に対する不安感や将来の不安を増加させ抑うつを悪化させる可能性がある一方で、血糖値を改善させることで安心していただき、将来への希望を与えることにより抑うつを改善させる可能性があると思われます。そこで、当院で教育入院を行った糖尿病患者さんを対象に入院前後に抑うつの評価を行いました。その結果、教育入院により有意に抑うつを改善させることが分かりました。特に入院時の抑うつ度が高い症例で改善する結果となっています1)2)。糖尿病患者さんには抑うつが多く、抑うつの合併は予後にも関与しているという報告もありますが、糖尿病教育入院は2型糖尿病患者さんの抑うつにも良い影響を与えている可能性があります。
当院ではフルコースの教育を受ける「教育入院」の他に、病状に合わせた講義のみ参加する「聴講生入院」や講義には参加せずに血糖コントロールだけを行う「血糖コントロール入院」があります。
1)新谷哲司ら:糖尿病患者における抑うつ症状の頻度と教育入院による改善効果. 糖尿病 56:1-7, 2013.
2)T.Niiya, et al: Diabetologia 55:Suppl1 S400, 2012.(Abstract)