外科2017/10/30

【消化器外科】胃について

胃癌

胃癌の罹患率は減少傾向にありますが、いまだに日本人では非常に多い癌です。しかし、早期で発見されることが多くなったこと、手術や抗癌剤などの治療が進歩したことなどにより胃癌による死亡率は年々減少してきています。多くの胃癌(特に早期胃癌)は治る癌になっています。治る確率を上げるためには、胃癌を少しでも早い段階で発見することが何よりも重要です。そのために消化器症状があればすぐに受診することは言うまでもなく、毎年胃癌検診を受けることが大切です。
 胃癌の治療はその進行度によって非常に多岐にわたります。以下に代表的な治療法を示しますが、患者さんの年齢・全身状態・持病などによっても治療法を変えていく必要があります。

内視鏡的治療

 胃カメラによる癌切除で、内視鏡的粘膜切除(EMR)や内視鏡的粘膜下切開剥離術(ESD)などを指します。当院消化器内科で行っています。胃は小さくなりませんので、治療後も今までと変わらない食生活ができ非常に魅力的な治療です。しかし、リンパ節転移の可能性が極めて低いと診断され、一括切除ができる大きさの早期胃癌に限られます。また、切除したものを顕微鏡検査で詳しく調べ、取り切れていないと判断された場合は手術(胃切除術)を追加するのが原則です。

手術(胃切除術)

 胃癌治療の中心的存在です。手術で癌を完全に取りきることが胃癌を治癒させる最も重要な因子です。胃癌はリンパ節転移を伴うことが多いので胃といっしょに周囲のリンパ節を切除します。このリンパ節郭清という手技は非常に重要で、日本の胃外科はこの手術を得意としており、そのため欧米と比べ手術成績が良いのです。
 胃癌の手術術式(胃を切除する範囲)は胃癌の存在部位・進行具合により決まってきます。以下に代表的な胃癌手術を3つ示します。

ⅰ)幽門側胃切除術 最も多い胃癌手術で、胃の出口側の3分の2以上を切除します。したがって、残る胃は3分の1以下(容積で言えば20分の1程度)になってしまいます。残った胃と十二指腸あるいは小腸をつないで消化管再建をします。
ⅱ)胃全摘術 胃全体に広がる癌や胃上部に限局していても進行癌では胃を全部切除します。食道と小腸をつないで消化管再建をします。
ⅲ)噴門側切除術 胃の入口側3分の1~2分の1を切除する手術です。胃上部に限局した早期の癌で行うことがありますが、数は少ないです。

※これらの手術(主に幽門側胃切除術)を腹腔鏡下に行うことがあります。術後早期の回復が早く、傷が小さく痛みが少ないといった長所がありますが、当院では現在のところ、リンパ節転移がまずないだろうと推察される早期の症例に限って行っています。進行した癌に対して必要な広い範囲のリンパ節郭清が技術的に困難で、癌を取り残す可能性があるからです。

 多くの胃癌患者さんでは癌の根治のため幽門側胃切除や胃全摘を行わなければなりません。しかし、胃を失うことはその後の患者さんの人生、とりわけ食生活に大きな影響を及ぼします。したがって、癌を治すことが最も大切であることは言うまでもありませんが、早期の癌ではその根治性を失わない範囲でさまざまな縮小手術も行っています。胃部分切除、幽門保存胃切除、迷走神経温存手術などがあります。一方で、非常に進行した胃癌では、他臓器もいっしょに切除する拡大手術や、逆にバイパス術のような症状を軽減するために行う緩和手術もあります。
 われわれは胃癌治療ガイドラインを参考に最良と思われる手術法を患者さんやご家族に提案し、十分に納得して頂いた上で手術にあたりたいと思っています。

抗癌剤治療

 近年の胃癌に対する抗癌剤治療の進歩は目覚しく、内服薬・注射薬・それらの組み合わせが年々開発され、かなり期待できるものになっています。抗癌剤と言うと辛く苦しい治療のイメージを持たれると思いますが、副作用をおさえる薬・方法も進歩しており必ずしもそうではありません。実際、多くの患者さんが外来通院で抗癌剤治療を受けられています。
 抗癌剤治療には次の2つの目的があります。

ⅰ)手術後の再発予防 手術で癌を取りきった(根治手術)と思っても、数か月から数年後に再発を見ることがあります。手術時に目に見えない転移が既に起こっているためです。このような微小な転移を抗癌剤でやっつけて再発をなくしたり遅らせたりしようというものです。
ⅱ)高度進行癌・再発癌に対する治療 手術で取りきることが難しいような進行癌や手術した後に再発した癌では、多くの場合まず抗癌剤治療を行います。一般には治癒させることは難しいですが、最近では癌が見えなくなるほどの効果を挙げたり、数年の延命を見ることも稀ではなくなりました。

放射線治療

 胃癌ではあまり有効ではないとされており、骨転移による痛みを抑えるときくらいしか用いられることはありませんでしたが、当院では、手術で取りきれないようなリンパ節転移や局所的な癌病巣に放射線照射を積極的に行い良好な結果を得ています。特に抗癌剤を併用するとさらに高い効果を得ることが多いようです。

 胃癌に対する手術、抗癌剤、放射線治療はいずれも近年進歩を遂げており、これらを柔軟に組み合わせる(集学的治療といいます)ことにより、従来あきらめていたような高度進行胃癌や再発胃癌でも長期生存あるいは治癒が期待できるようになってきました。医師と患者さん双方が、常に希望を持って治療にあたることが大切であると考えています。

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