形成外科2024/12/03

爪のトラブル

形成外科で扱う爪の病変としては「ひょうそ、化膿性爪囲炎」「巻き爪」があります。
体質的な爪の異常、真菌=カビなどによるトラブルは主に皮膚科で治療する疾患になります

ひょうそ=爪の周囲に起こる化膿性の疾患です。

化膿性爪囲炎の一種ですが手の指に多く、爪の根もと付近から起こるものを後述の「陥入爪による爪囲炎」と分けて説明します。

原因:通常は爪の根もと付近から化膿菌が入って炎症を起こします。きっかけは不明のことが多いです。

病態:爪の周囲が赤く腫れ、強い痛みが出ます。長く置いておくと一部が黄色になって潰れ、膿が出て治ることもありますが、奥に炎症が広がり骨など治りにくいところまで化膿すると大事になります。

治療:局所麻酔をして、腫れている皮膚を切って膿を出すのが一般的ですが、爪の端が側爪郭を刺激し続けることで再燃することもありますので、私たちは爪の端の部分を抜くようにしています。抜いた部分から膿がでてきますし、その部分がむき出してはないので、後の痛みが比較的軽いというメリットがあります。骨などの組織も化膿してしまっていたら、大きく皮膚を切って化膿している組織をかじりとらねばなりません。

陥入爪による爪囲炎=主に足の趾に起こる化膿性の疾患です。

原因と病態:最も多いのが深爪です。爪は薄く、硬い刃物のようなものです。

  
どちらが刺さりやすいでしょう?


爪の端を深爪しているために角が刺さった例。右端の爪の角は隠れています。左端も炎症を起こしています。

 傷ができると爪はその中に入ってきます。爪にも趾にも細菌はたくさんいますので、化膿が起こります。化膿すると側爪郭は腫れるので、爪と側爪郭が押し合う圧力が強くなって傷が広がり悪化していきます。日がたつと、側爪郭の傷に肉芽組織という赤い肉が出てきます。これは菌から身を守ろうとする組織でもあるのですが、圧力はさらに強くなって、自然には治らなくなります。これが何か月も続くと、側爪郭自体も大きくなって、収拾がつかなくなってしまいます。何年も続くと趾先まで大きくなってしまいます。


趾先まで大きくなった例。右の親趾と比べてみてください。

 深爪をしていなくても、靴が小さい、形態的に隣の趾を押し合う、側爪郭の皮膚が弱いなどで陥入爪になり、爪囲炎を引き起こすこともあります。

治療:ごく初期なら側爪郭と爪の押し合う圧をなくせば、自然に側爪郭が修復されます。隣の趾との間にクッションを入れて趾と趾とが押し合わないようにする。またはテープで側爪郭を爪の反対側に引っ張るなどを行います。
 しっかりとした傷になってしまうとそれだけでは治りにくいので、爪と側爪郭の間にバリア(チューブや綿など)を入れることで治りやすくします。
 それでも治らない場合は局所麻酔をして、刺さっている爪の端を根元から抜いてしまいます(部分抜爪)。肉芽組織ができている場合はそれも削りとることもあります。爪を作る爪母は残っていますので、爪はまた生えてきます。
 側爪郭まで大きくなってしまった場合は、部分抜爪を行っても生えてきた爪がまた刺さる可能性が高いので、側爪郭も削り取る必要性がでてきます。(下の写真)
  
左:側爪郭も肥厚してしまっています。
中:爪の両端を根もとから抜き、側爪郭を深くえぐるように切除します。
右:側爪郭が小さくなると炎症は起きにくくなります。

 また、爪の幅が広すぎるために炎症を起こしやすいのであれば、爪の端の方を作る爪母組織を切除して、幅を狭める手術を行うことも多いです(詳細は「児島法」で検索してみてください)。

巻き爪

原因:実は本来の姿に戻った状態なのかもしれません。
爪があるのは爬虫類、鳥類、哺乳類です。哺乳類には様々な形態がありますが、これは生きる環境に合わせて進化したためです。本来は爬虫類や鳥類のかぎ爪の姿です。

地面、木、食料に食い込ませるために、丸くなって強度が上がっています。深爪をすると、血管を含んだ組織がありますので、出血します。

 人類は足は平地を歩くため、手はものを持つ、つまむなどのためにあります。爪は指腹や指骨の支えになって指腹からの力に対抗するようになっています。ですが、本来の丸くなろうとする性質は残っています。これを指腹からの圧力で広げているために、平坦な爪を維持しているのです。
丸くなろうとする性質。   指腹からの圧力で広げている。

 乳幼児期に立ち上がったころは、足が小さいので、すべての趾先まで使ってバランスをとっています。だから、幼児の爪は平たく、反り返っていることもあります。
 そのまま趾も使って立って歩きつづければ、巻き爪にはならないはずです。しかしながら、足が大きくなり、靴を履くことでバランスをとるのが楽になると、趾先を使わなくなる人もいます。陥入爪を繰り返していると、趾先を使うと痛いので、浮かせて歩くようにもなります。この習慣が続くと、趾先を浮かせて歩く、いわゆる「浮き趾」という状態になります。指腹からの圧力がなくなりますので、爪は丸くなり放題。巻き爪になっていきます。
 なので、巻き爪は爪自体の病気でも、老化現象でもなく、歩き方が良くないために爪が「先祖返り」をおこしただけと考えられます。
 浮き趾を何十年も続けると、趾の関節の曲げ方を忘れてしまいます。関節も動かなくなってきます。本当なら足の親趾の関節は90度くらい曲がるものですが、あなたはいかがでしょうか。

病態:見た目が変化します。ある程度まで巻くと、陥入爪、爪囲炎が起こりやすくなります。爪を切りにくくなり、靴に当たって痛んだりします。

治療:爪は矯正できるものです。以前は弾力性のあるワイヤーを使っていましたが、今はバネが入った専用の矯正器具「巻き爪マイスター®」を使っています。また爪が硬く、矯正に抵抗性がある場合は「リネイル®ゲル」を使って柔らかくしながら矯正します。

 

 ただし、これらを使う治療は保険診療ができませんので、治療費が1万円を超えてしまいます。
 大事なことは、爪を矯正できてもその下の土台は変形したままだということです。爪は土台に合わせて伸びてきますので、器具を外すとまた巻いてくるのです。なので、この先も形態のよい爪にするためには土台の変形も直さなければなりません。土台を戻すためには、趾腹からの圧力をかけ続ける必要があります。関節の屈曲ができるようになり、浮き趾でない歩行を続けなければ、「元の木阿弥」になるということです。
 なので、浮き趾を治せない方には、①爪母組織の部分切除を行って細い爪にしてしまう(陥入爪で述べた「児島法」)②削って痛みが出ない程度まで整える。などで対処することになります。

 
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